近年、医療法人の事業承継（M&A）は急速に増加しています。
その背景には、経営者の高齢化、後継者不足、そして医療制度の変化があります。かつては「事業承継＝経営の終わり」という印象がありましたが、今では「地域医療を未来へつなぐ経営戦略」として注目されるようになっています。
都市部では競争の激化に対応するための合併・統合が、地方では医療提供体制を維持するための承継が増加傾向です。
医療法人の事業承継は、地域特性に合わせて多様化しています。
医療法人の仕組みと承継時の基本ポイント
医療法人は非営利法人であり、得た利益は医療サービスや設備への再投資に充てる必要があります。
社団医療法人・財団医療法人のどちらであっても、承継には法的手続きが伴い、形態によって対応が異なります。
また、「持分あり医療法人」と「持分なし医療法人」によって、出資者の権利関係や譲渡方法も変わります。
この仕組みを正しく理解しておくことが、スムーズな承継の第一歩です。
医療法人M&Aの主なスキームと流れ
医療法人同士の承継では、最も一般的な手法が持分譲渡です。
出資者が持つ持分を他の法人に譲り渡すことで経営権を移転します。
また、社員（構成員）の入れ替えや、特定の事業部門を切り離す「分割」、施設単位で譲渡する「事業譲渡」も活用されています。
近年では、医療法人と一般企業の提携・買収も増加しています。
医療法人の非営利性を維持しつつ、企業側の経営ノウハウやIT技術を取り入れることで、医療の質と経営効率を両立させる動きが広がっています。
承継によって得られる3つのメリット
第一に、経営効率の向上が挙げられます。
合併によって人員・設備の重複を解消し、コスト削減と生産性向上を実現できます。
第二に、医療の質の向上。
複数の法人が連携することで、専門医療やチーム医療を強化でき、患者満足度も高まります。
第三に、経営の安定化です。
事業規模の拡大や財務基盤の強化によって、地域医療を長期的に継続できる体制が整います。
譲渡価格の決定と評価の考え方
医療法人の譲渡価格は、単なる利益倍率では決まりません。
経営成績だけでなく、医療圏内の競合状況、地域特性、職員の定着率、医療機器・不動産の資産価値などを総合的に評価します。
また、未払い費用やリース残高、原状回復義務などの「隠れた負債」も見逃せません。
こうした評価は、医療M&Aに精通した専門家が行うことが一般的です。
適正価格を把握しておくことで、譲渡交渉を有利に進められます。
医療法人承継で注意すべきリスクと準備事項
医療法人の事業承継は、慎重に進めなければならない手続きです。
まず注意すべきは「情報管理」です。承継の噂が漏れると、スタッフの離職や患者離れなどのリスクが発生します。
また、所轄庁への届け出や承認など、医療法人特有の法的手続きが複雑なため、スケジュール管理も重要です。
さらに、承継後の統合作業（PMI：Post Merger Integration）も欠かせません。
カルテ・レセコンの統合、職員待遇の調整、ブランド運用など、細かな設計が求められます。
これらを怠ると、せっかくの統合効果が十分に発揮されません。
まとめ：医療法人の承継は「経営のバトン」をつなぐこと
医療法人の事業承継は、単なるM&Aではなく、地域医療を次の世代につなぐ経営のバトンリレーです。
正しいタイミングと専門的なサポートを得ることで、医療の質と経営の安定を両立できます。
高齢化や医師不足が進む今こそ、早めに準備を始めることが重要です。
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